旅をすると、いろいろな国の言葉で案内が書いてあるのを見かける。最近日本でも複数の言語で書かれている案内を見かけることが多くなった。製品のマニュアルでもそういう例を見る。とても良いことだと思う。
ただ、ずっと気になっていることがあった。日本語と中国語がある場合だ。特に日本国外で、日本語の部分にも中国語のフォントが使われていて、特に仮名に違和感がありありなケースが多い。
こんな感じ(Mac OS X ならこの行はへんてこに見えるはず。Windows ではどう見えますか?)。
中国語フォントには規格の関係で日本語の仮名も含まれている。だがこの仮名はお世辞にも使い物になるとは言えない。そもそも中国語で使う文字ではないのだから致し方ない(日本語のフォントにだって、ギリシャ文字やロシア文字が含まれるけれど、記号として使えても、それらの言語を表すためには使い物にならない)。
さて、日本国内で見る日本語&中国語の例だとさすがに日本語の部分はきちんとしている。けれど、今度は日本語と中国語に使われているのフォントのデザインの差に違和感がある。ウェイト(太さ)が全然違ったり、日本語はサンセリフ(ゴシック)なのに、中国語は明朝体とか宋体になっていたり、中国語の部分のフォントの質が明らかに低かったり。先の例よりましだが、これも気になる。気になりません?
これがラテン文字を使う言語の場合、すべての言語に同じフォントを使うことができて、見た目にカッコ良くすっきりまとめられるのだ。うらやましい。日本語も中国語も漢字を使うのだから、一つのデザインで両方の言語をカバーできて、かつ両方の言語に対してカッコいい結果を出せるフォントができるはず。
中国が重要になるにつれ、日本でも世界でも、そのようなフォントの重要度が増えてくるに違いない。日本語の中でも、中国の人名や地名が出てきたり、その反対の場合もこれから増えてくると思う。
心配なのは、一番最初の例のように、質の低い日本語の文字がグローバルスタンダードになってしまって、高品質なフォントが日本国内だけのお家芸になってしまうことだ。グローバルに羽ばたける高品質な日中共通デザインのフォントが欲しい。
SnowLeopard で新しく加わったフォント Hiragino Sans GB はまさにそういうフォントだ。
これはヒラギノ角ゴシックの中国語版、正確に言うと大陸の簡体字版で、ヒラギノ角ゴシックとデザイン的な互換性がある。ウェイト(太さ)は W3 と W6 の二つ。漢字の字形は完全に中国の規格に沿っていて、日本のメーカーが作ったフォントでは初めて中国政府の認証を取得した。
どこが日本語用のヒラギノと異なるかというと、まず含まれる文字が違う。Hiragino Sans GB は GB18030-2000 という中国の規格に沿っていて日本語のヒラギノよりも広い範囲をカバーしている。それから、同じ漢字でも形がちょっと違う。それぞれの国の人が慣れた漢字の形というのがあって、日本、中国、台湾、韓国でそれぞれ違う。このパラグラフ、SnowLeopard で見ている人は漢字の形に違和感を感じられたのではないかと思う。実はこのパラグラフはフォントに Hiragino Sans GB を指定してあるのだ。なので、もし SnowLeopard で読んでおられたら、これが中国の漢字の形。
日本の一般のユーザーがこのフォントを使うことは少ないと思うけれど、こういう風に遊ぶこともできる。ヒラギノでも漢字が足らない場合にも味方になってくれるに違いない。
この前例のないすばらしいフォントを開発し、アップルに許諾をくださった大日本スクリーン、字游工房、その他の関係者の方々に多謝多謝。感謝してもしきれません。
ヒラギノが日本で愛されるように、Hiragino Sans GB も中国で愛されるフォントになりますように。